月別アーカイブ: 2017年04月16日

H29-S1S2: 数理情報学輪講

テキスト:
J. M. Sanz-Serna, Symplectic Runge–Kutta Schemes for Adjoint Equations, Automatic Differentiation, Optimal Control, and More, SIAM Rev., 58 (2016), 3-33.

以下,この輪講班参加者向けの情報です.
(アクサンを打ちにくいので,以下,アクサンはすべて省いています.)
上のテキストを含め,本稿中でリンクを貼った文献は,東大内からはそのリンクでダウンロードできます.

このテキストは,数値解析(微分方程式の数値解法の),最適制御,自動微分等に関する広範な知識を要求します.Referencesに挙がっている文献のうち,特に以下のものが有用でしょう.番号はテキストの References のものです.

  • [15] A. Griewank, A mathematical view of automatic differentiation, Acta Numer., 12 (2003), 21–398.
  • [19] E. Hairer, C. Lubich, and G. Wanner, Geometric Numerical Integration, Springer, Berlin, 2006.
  • [21] E. Hairer, S. P. Norsett, and G. Wanner, Solving Ordinary Differential Equations I, Springer, Berlin, 1993.
  • [22] E. Hairer and G. Wanner, Solving Ordinary Differential Equations II, Springer, Berlin, 1996.
  • [41] E. Trelat, Controle Optimal: Theorie et Applications, Vuibert, Paris, 2005.

特に[19]が非常に有用で,このテキストで扱っているsymplectic法に関する記述が丁寧に載っています.
[21,22]は微分方程式の数値解法に関する辞書的教科書です.数理3研の共通図書にあります.これはなくてもすませられますが,Runge–Kutta法の次数条件など細かいことをチェックしたければこれを参照すると良いでしょう.

テキストの途中で出てくる自動微分については,[15]が参考になりますが,同じ著者が共著で書いた本,Griewank–Walther (2008)の方がとっつきやすいです.『アルゴリズムの自動微分と応用』(久保田・伊理, 1998) でもよいです.これらは松尾のところにあります(図書館にもあるかもしれません).必要なら貸します.

最適制御については,[41] がもっともこのテキストに合っているようですが,フランス語です.著者E. Trelat氏のHPを見てみてください.

その他,関連文献を調べようと思ったら,松尾のHPの「文献・図書等に関する情報」ページも活用してください.

文献・図書等に関する情報

■そもそも見るべきURL群

■文献を検索する

上の,総合図書館の各種メニューの中に独自の検索エンジンもあるようだが(例:TREE),松尾はあまり活用していない.松尾がよく使うのは以下のとおり.

  • MathScinet:アメリカ数学会の提供する文献検索サービス.数学系を網羅.
  • google scholar:なんだかんだで便利.ある論文を引用している論文も調べられる.

■電子書籍を読む

現在,東大では様々な電子書籍を利用できる.これらはダウンロード可能だが,当然のことながら著作権上,利用の形態は限られるので注意すること.利用可能な電子書籍の範囲は,東京大学で利用できる電子ブックにある.

数理3研近辺で特に有用なのはSpringer社の書籍.これらにアクセスするときは,(Springer をググッて springer.com から本を探しに行くのではなく)上のページにあるリンクを踏んで SpringerLink から行くこと(左にそのリンクを貼っておきました).東大から全 Springer 書籍が見えるわけではなく,以下のようなものが見えるはず.いずれにしても SpringerLink から行ってみて,鍵マークが付いていなければダウンロード可能.

  1. Lecture Notes in Computer Science(1973-1996, 2005-現在):コンピュータ科学のレクチャーノートシリーズの書籍.
  2. Lecture Notes in Mathematics(1964-現在):数学のレクチャーノートシリーズの書籍.
  3. eBook Collection: Mathematics & Statistics(原則として2005年以降):Springerの電子書籍のうち,数学・統計セクションの書籍.

最初の2つは「レクチャーノートのうち」という言い方であるが,最後は切り口が違っていて「内容的に数学・統計分野の本を」という言い方になっている.これは大変広範囲で強力なカテゴリだが,残念ながら2005年より古い本はほとんど見られない.

■数理3研付近でよく読む雑誌

下記URLは(自分用に)東大内から,閲覧可能な形でアクセスする際のURLになっているので注意.(学外の方はこのURLを踏んでもエラーになる恐れがあります.)また,古いものは下記URLではダメで,別なURLから行かないと見えないものもある.その場合は,冒頭に述べた「E-journal portal」からどのURLから見に行けるかを調べること.最悪,どのURLから行っても電子的には見られない古い文献もある.その場合は同じく冒頭の「MyOpac」などから東大内に冊子体としてあるかどうか調べ,それに基づいて「注文」することになる.

SIAM:

  1. SIAM Review (SIREV)
  2. SIAM J. Numer. Anal. (SINUM)
  3. SIAM J. Sci. Comput. (SISC)
  4. SIAM J. Matrix Anal. Appl. (SIMAX)
  5. SIAM J. Math. Anal. (SIMA)
  6. SIAM/ASA J. Uncertainty Quant. (JUQ)

Springer:

  1. BIT Numer. Anal.
  2. Numer. Math.
  3. Found. Comput. Math.
  4. J. Sci. Comput.
  5. Japan J. Indust. Appl. Math.(※東大は閲覧権限なし)

IOP science

  1. J. Phys. A
  2. Nonlinearity

Oxford

  1. IMA J. Numer. Anal.

Cambridge

  1. Acta Numer.

AMS

  1. Math. Comp.

Elsevier

  1. J. Comput. Appl. Math.
  2. J. Comput. Phys.
  3. Linear Alg. Appl.
  4. Physica D

(※この部分は,宮武勇登さんのページを参考に作りました.)

“The Bicentennial Man” I. Assimov

mq-s



centerstar “—`Freedom is without price, Sir,’ said Andrew. `Even the chance of freedom is worth the money.'”
from
“The Bicentennial Man” by Isaac Asimov

言わずと知れたSF小説の大家,Isaac Asimovによる一篇から.この作品は1976年にアメリカ建国200周年を記念したオムニバス作品集の一篇として書かれたが,その企画自体が頓挫し本作品は通常のAsimov自身の一篇として出版されたらしい.この経緯のため,作品タイトルはそのものずばり「200周年の男」である.

物語は,Martin一家のところにお手伝いロボットNDRがやってきたところから始まる.幼い次女,リトル・ミス(Little Miss)はその記号を正しく読めず,”Andrew”(記号 NDR の英語発音「エンディアール」を思い浮かべてみること)と呼び始めたことから,「彼」はロボット Andrew として暮らすことになる.Andrew はとても特殊なロボットで,リトル・ミスに木彫りのペンダントを作ってプレゼントするなど驚くほどの創造性を見せる.寛容な Martin 家主人は Andrew の好きにさせ,また「アーティストには対価が支払われるべきだわ」というリトル・ミスの提案を容れて,作品の売り上げを Andrew 自身の貯金として扱うようになる.やがて時代が立ち,リトル・ミスが結婚して子供を作る頃,何世代も新しいロボットが作られるようになっても,Andrew のように人間らしいロボットが誕生することはついになかった.

Andrew は,ロボットである自分に優しい Martin 一家に感謝しつつ,少しずつ,「本当の人間になりたい」と願うようになる.あるとき Andrew は,そのための第一歩として,Martin 家主人に「自分を『自由』にして欲しい」と懇願する.「人間」は,他の誰にも所有されないものだからだ.さすがの主人も,これには驚いて反論する.ロボットが資産を持つことすら本当はグレーゾーンなのに,人間に所有されないと宣言することで社会がどう反応するか,その結果,Andrew が貯めたお金—その頃には60万ドル(6000万円)程にもなっていた—は,正当な所有者がいないものとして没収されてしまうかもしれない,そのことを考えてみなさい,と.

冒頭の台詞は,それに対して Andrew が答えたものだ.

「・・・自由であることに値段などつけられません,旦那さま.」アンドリューは言った.「自由の,そのかけらですら,すべてを投げ打つに値するのです.」(拙訳)

「自由」の国,アメリカの建国200周年に相応しい台詞である.また,その200年の間に,アメリカにも不幸な歴史があったことも我々は思い出すべきだろう.人間は,決して他人には所有されないものなのだ.Asimovは,そのことをSF作家としての立場で,ロボットに語らせることで我々に訴えかける.

Andrew は無事に自由を勝ち取り,やがて様々な改良「手術」を受け,限りなく人間へと近づいてゆく.反対に,人間も人工臓器などの発展である意味ではロボットへと近づいていく.それらが漸近するとき,果たして,人間とロボットの境目はどこにあるのか.それらが究極に近づいた暁にも,両者は依然として線引きはできるのか.これは古くから語られてきたトピックだが,ロボット工学が急激に進化し,また人工知能が新世代に入った本稿執筆時点で,改めて考えさせられる論点である.

この作品で,Asimov は無論この問題の答えは出さない.その代わり,Andrew が生産されて,いや「生まれて」200年が経つ頃・・・Andrew に優しくしてくれた,大好きなリトル・ミスも他界して100年以上が経った頃,究極の「人間らしさ」を求めて,Asimov は彼にあるひとつの決断を下させる.Andrew が最後に辿り着いた先がどこか,ぜひ作品を読んで確かめてみて欲しい.

ラストの台詞に,我々人間は,思わず涙をこぼさずにいられないだろう.